差異と反復


小品種大量生産が主導したフォーディズムの時代は、一見これは変な話なのだが、つねにあたらしさを追求し、反復を嫌ったモダニズムの時代と重なる。現実の生活は似ているもの、または全く同じものの反復によって構成されていたが、芸術の世界はその対極、即ちあらゆるものからの差異化を実現することに夢中だった。


だが、ポスト・フォーディズムの時代、即ち多品種少量生産へと生産体制が方向転換した時代であると同時にポスト・モダニズムと呼ばれるようになった時代の芸術は、「反復性」によって特徴付けられる。フレドリック・ジェイムソンポストモダンの特徴として挙げた「パスティシュ」が、その典型であろう。加えて、それを象徴するのが、ポストモダン時代における情報の独占者といえるメディアの運動パターンである。篠原はウンベルト・エーコを論じながらこういっている。「メディアが作り出すものは、量産品に特徴的な反復的性格を逃れることができない。」(篠原資明『エーコ講談社1999.204ページ)